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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)261号 判決 1998年7月16日

東京都台東区寿3丁目15番6号

原告

有限会社イシモリ・コーポレーション

代表者代表取締役

石森弘

訴訟代理人弁護士

佐藤泉

東京都墨田区東向島2丁目49番4号

被告

株式会社板垣製作所

代表者代表取締役

板垣道勝

訴訟代理人弁理士

竹下和夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が平成7年審判第26876号事件について平成8年9月20日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、考案の名称を「ガスライター」とし、昭和60年6月6日に実用新案登録出願、平成6年3月23日に設定登録された実用新案登録第2011789号(以下その考案を「本件考案」という。)の実用新案権者である。

原告は、平成7年12月18日に本件考案に係る実用新案登録の無効の審判を請求し、特許庁は、同請求を平成7年審判第26876号事件として審理した上、平成8年9月20日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年10月7日に原告に送達された。

2  本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載

ガスボンベまたはタンクと連結されるガスノズルを備え、このガスノズルの径内に形成されたガス流路の上流側から燃料ガスをガス流路の下流側に流動させる小さな開孔のスロート部をガスノズルの径内に設け、そのスロート部近傍でガスノズルの側壁部に空気の取込み穴を設け、この取込み穴から吸引する空気とスロート部から流動する燃料ガスとを混合し、当該混合ガスを燃料ガスとして流出するガスライターにおいて、

ステン、真鍮等の金属材料から1000~3000メッシュに形成された織布または不織布のフィルター膜を燃料ガス中に混在する不純物の濾過用兼燃料ガスの流量調節用としてスロート部の近傍でガス流路の上流側に張設装備したことを特徴とするガスライター。(別紙図面1参照)

3  審決の理由

審決の理由は、別添審決書の「理由」のとおりである。なお、審決の甲第1号証は本訴の甲第1号証、審決の甲第7ないし第12号証は、番号の順に、本訴の甲第11、第12、第13、第14、第5、第6号証の、審決の甲第15号証は本訴の甲第9号証の各写であり、審決の甲第13、第16号証はそれぞれ本訴の甲第7、第10号証である。以下、本訴の甲第11号証(審決の甲第7号証の原本)を「引用例1」、本訴の甲第9号証(審決の甲第15号証の原本)を「引用例2」、本訴の甲第5号証(審決の甲第11号証の原本)を「引用例3」、本訴の甲第6号証(審決の甲第12号証の原本)を「引用例4」、本訴の甲第7号証(審決の甲第13号証)を「仲町意見書」、本訴の甲第10号証(審決の甲第16号証)を「舟尾説明書」という。引用例1については、別紙図面2参照)

4  審決の取消事由

審決の理由Ⅰ、Ⅱは認める。同Ⅲのうち、審決の甲第1ないし第6号証が審決認定のとおりのものであること(5頁12行ないし下から2行の「あるから、」)、審決の甲第12、第13号証の記載及び発行ないし書かれた時期が審決認定のとおりであること(7頁末行ないし8頁16行)、審決の甲第11ないし第13号証には整流機構がステン、真鍮等の金属材料から1000~3000メッシュに形成された織布又は不織布のフィルター膜である点はなんら記載されていないこと及び審決の甲第11ないし第13号証記載のものは予混合バーナーであって、本件考案のようなガスライターではないこと(9頁5行ないし19行)、審決の甲第14、第15号証の記載が審決認定のとおりであること(10頁2行ないし11頁2行)、審決の甲第16号証の記載が審決認定のとおりであること(11頁6行ないし9行)は認め、その余は否認する。同Ⅳは否認する。

審決は、引用例1ないし3記載のものの技術内容を誤認した結果、本件考案の進歩性の認定判断を誤ったものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  審決は、引用例1は、予混合燃焼の装置としてブンゼン・バーナーが公知であることを立証する証拠としては有効であるが、本件考案のノズルの構造が原理的にはブンゼン・バーナーと同じ予混合形式を採用しているとしても、本件考案の構成要件である「ガスボンベまたはタンクと連結されるガスノズルを備え、このガスノズルの径内に形成されたガス流路の上流側から燃料ガスをガス流路の下流側に流動させる小さな開孔のスロート部をガスノズルの径内に設け、そのスロート部近傍でガスノズルの側壁部に空気の取込み穴を設け、この取込み穴から吸引する空気とスロート部から流動する燃料ガスとを混合し、当該混合ガスを燃料ガスとして流出するガスライター」の構成(構成要件A)は、引用例1記載のブンゼン・バーナの構成とは相違するから、引用例1により予混合燃焼の装置としてブンゼン・バーナーが公知であることが立証されても、本件考案の構成要件Aが公知であることを立証する証拠にはならないと認定判断した。

しかし、引用例1の第2図には、aガス燃料を燃焼させるバーナーのノズル構造において、bノズル内のガス流路においてガス流路の上流側から燃料ガスをガス流路の下流側に流動させる小さな開口のスロート部をノズル内に設け、cそのスロート部近傍に空気の取込み穴を設け、dその取込み穴から吸引する空気とスロート部から流動する燃料ガスとを混合し、当該混合ガスを燃料ガスとして流出するとの技術内容が開示されている。

そして、引用例1は、ガスを燃料とするバーナー全般のノズル構造に共通する一般的な技術を示すものであり、当然、ブタンガスを燃料とするガスライターのノズルに関しても共通し、適用されるものであるから、引用例1記載のものは、当然に、ガスボンベ又はタンクと連結されるガスノズルを備えているものを含んでいる。

また、引用例1記載のものは、ノズル内にノズルスロートと、ノズルスロート近傍の空気取込み穴を備えていること、また、実施例の記載及び図面からみて予混合の案施例の一つとして、空気取り入れ穴から取り入れた空気と燃料ガスを混合して下流へ流動させ、当該混合ガスを燃料ガスとして流出する構造であることは明らかである。そして、上記ノズルは、ガスを燃料とする燃焼器具一般の記載であるから、ガスを燃料とするガスライターを当然に含んでいる。

したがって、引用例1には、本件考案の構成要件Aの全部が記載されているものである。このような予混合のガスノズルは、ブンゼンバーナーとして100年以上前からガス燃焼の方式として採用されてきたものであって、基礎的技術である。

(2)ア  引用例2には、ガスライターのフィルターとして金網を張設することが記載されている。この記載は、本件考案の「ステン、真鍮等の金属材料から1000~3000メッシュに形成された織布又は不織布のフィルター膜を燃料ガス中に混在する不純物の濾過用兼燃料ガスの流量調節用としてスロート部の近傍でガス流路の上流側に張設装備したことを特徴とするガスライター」の構成(以下「構成要件B」どいう。)のうち、フィルターが1000~3000メッシュであることを除き、そのすべてが開示されているものである。

なお、引用例2には、フィルターの濾過機能について明示するところはないが、フィルターである以上、不純物の濾過機能があることは、ある程度当然である。

イ  引用例3には、<1>予混合のバーナーでは、整流機構が必要とされること、<2>整流機構とは、金網のような多孔体フィルターで、通過する燃料の通過速度や通過量の安定を図るものであるという内容の記載がある。したがって、引用例3及びその内容を若干補充したものである引用例4は、本件考案の構成要件のうち、予混合のバーナーであることを意味する構成要件Aと、予混合のバーナーにフィルターとして金網を使用することを組み合わせる技術を開示しているものである。

更に、予混合のバーナーは、通常のバーナーよりもシャープな炎を形成するため、整流機構としてのフィルターを要求する度合いはより高いのであるから、予混合の燃焼方式をとる以上、フィルターを張設することは常識であり、このフィルターとして目の細かい金網を使用することは、仲町意見書に記載されているように基本的な技術である。

ウ  舟尾説明書(本文及び添付資料2)によれば、遅くとも昭和51年当時には、1000~3000メッシュという金網が大量生産され、ガスのフィルターとして広く汎用されていたことが明らかである。

(3)  以上のとおり、ガスライターにおける予混合のバーナーノズル(構成要件A)、ガスライターに金網をフィルターとして使用すること、予混合のバーナーノズルに金網をフィルターとして張設することは、いずれも公知であり、1000~3000メッシュの金網が、遅くとも昭和51年頃にはガスのフィルターとして一般的に使用されていたことも明らかである。

そして、1000~3000メッシュという数値は、フィルターの目的を達成する上で、当業者が適宜選択しうる最適条件の設定の幅に過ぎず、他の構成要件がそれぞれ公知である以上、この数値限定が特に何らかの考案として意味を持つものではない。

したがって、本件考案は、引用例1ないし3記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件考案について容易推考性を否定した審決の認定判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。同4は争う。

2  被告の主張

(1)  引用例1は、ガスライターのガスノズルとは構造的に異なるブンゼンバーナーを示すものであり、この原理は家庭用のガスコンロや瞬間湯沸機のバーナーなどに応用されているが、ガスライターには応用されていない。

引用例1は、本件考案の「小さな開孔のスロート部をガスノズルの径内に設け、そのスロート部近傍でガスノズルの側壁部に空気の取込み穴を設け」に相当する構成を開示していない。

したがって、引用例1には、本件考案の構成要件Aは記載されていない。

(2)ア  本件考案の「濾過」とは、単に不純物又は異物を除去するというのではなく、ガスライターのガスボンベ又はタンクに収容される燃料ガス中に含まれている微細な不純物又は異物という特殊なものに着目し、これを除去することを意味する。これに対して、引用例2は、気化ガスの通過量とガス圧の変化を制御し、ガスライターの炎の安定化を図る整流機構としてのフィルターパッキングを開示するものであって、そのフィルターパッキングは燃料ガス中の不純物ないし異物を濾過するフィルターを兼ねるものではない。

したがって、引用例2は、フィルターが1000~3000メッシュであることだけでなく、フィルターを不純物の濾過用兼燃料ガスの流量調節用として装備することも開示していない。

イ  原告は、フィルターとして目の細かい金網を使用することは、仲町意見書に記載されているように基本的な技術であると主張する。しかし、仲町意見書の添付資料1、2にも原告の主張の裏付けとなる資料はないから、原告の主張は誤りである。

ウ  原告は、舟尾説明書(本文及び添付資料2)を根拠として、遅くとも昭和51年当時には、1000~3000メッシュという金網が大量生産され、ガスのフィルターとして広く汎用されていたと主張する。しかし、舟尾説明書の添付資料2には、3000メッシュまでのものは示されておらず、また、上記添付資料2が昭和51年当時のものであるという証拠もないから、原告の主張は認められない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

第2  本件考案の概要

成立に争いのない甲第1号証(本件公告公報)によれば、本件明細書に記載された本件考案の概要は、以下のとおりと認められる。

1  そのガスライターの燃料としては、ブタン80%、プロパン20%程度の混合ガスが通常用いられている。この混合ガス中には不純物が多く含まれ、その他に、ガスノズル中には、ノズル加工時の金属粉等が異物として存在する。この異物が燃料ガス中の油ガス等と混じり合って最小で40μ程度微細な不純物となり、ガス流れに伴ってノズル先端から流出する。その不純物が燃料ガス中に混在すると、燃料ガスが不完全燃焼するところから除去することが望まれるが、上述したガスライターのフィルター膜としては200~300メッシュのものが通常装備されていることから、当該不純物を除去することができない。また、このフィルター膜としては耐熱性を有するものを用いるとよいが、その耐熱性から石綿等を用いるときには繊維の細かい毛羽立ちがガス流れに伴って飛散し、これが燃料ガスの不純物と混じり合ってガスノズルの径内に付着することによりガス流れを阻害する事態も招く。

考案が解決しようとする課題

本件考案は、純粋な燃料ガスをノズル先端から流出させて円滑に着火できるよう改良したガスライターを提供することを目的とする。(2欄13行ないし3欄14行)

2  本件考案においては、実用新案登録請求の範囲(本件考案の要旨)記載の構成を備えている。(3欄16行ないし30行)

3  本件考案に係るガスライターによれば、1000~3000メッシュのフィルター膜を装備することにより燃料ガス中に含まれる微細な不純物を除去できると共に、そのフィルター膜でガス流れを適度に抑えて取込み穴より吸引する空気と適度に混合できるから、ガス着火に必要な適当量の純粋な燃料ガスをガス流路の下流側に流動させることができる。このため、空気との純粋な混合ガスをノズル先端より噴出できるから、ガス着火で完全燃焼させ、燃焼効率を高め得て燃料ガスの消費量を少なくすることができる。また、フィルター膜が金属材料で形成されているから、毛羽立ち繊維を含む不純物が付着することによるノズル径内の目詰まりも防止することができる。(6欄11行ないし24行)

第3  審決の取消事由について判断する。

1  引用例1の技術内容について

(1)  成立に争いがない甲第11号証によれば、引用例1には、資料(1)に、「第2図に示すバーナーは中央に大きな炎口が1個あり、その周囲に小さな炎口を配置した特殊ブンゼンバーナーである。このバーナーは混合管の部分が極めて精密に加工してあるため、理論空気量を一次空気として吸引混合でき、炎はあたかもブラスト炎と同様の短いものが得られる。第3図(A)今これにガス管を接続しガス圧を徐々に上げて120mm水柱に達すると」(1頁右欄22行ないし29行)、「このフレームリテンション バーナーを用いれば都市ガスの1/2の燃焼速度しかない天然ガスでも数倍の強い火力を発揮することができる。そしてアメリカに於いては、このフレーム リテンション バーナーの出現とともに天然ガスは工業用熱源としてめざましく進出したのである。燃焼速度の速い都市ガスにこのバーナーを応用すると・・・工業的応用範囲も更に広くなるのである。」(2頁左欄7行ないし末行)との記載とともに、「第2図 フレーム リテンション バーナーの構造」として、先端部が小径のガス流路(スロート部)となっているノズルと、その周囲を包囲し、空気調節ダンパーが形成され、下流方向に向けて広がる円錐台形状のガス流路が形成されている部材から構成されるバーナーが図示されているが、空気取込み穴の位置は明示されていないこと、資料(2)に、「ブンゼンバーナー Bunsen burner 燃料ガスをうまく燃やすために、1855年R.W.ブンゼンが発明した燃焼器具。第1図で燃料ガスを送り込む部分C、これを空気と混ぜその割合を調節する空気穴aの部分Bおよびこれらの混合気体を吸い上げ混合する部分Aの3部分からなる。ガス流量を調節するコックgおよび点火用パイロット炎の小管を有するものもある。aの部分を閉じ、bからガスを送り込み、Aの上端に点火する。」(1行ないし11行)との記載と共に、「第1図 代表的なブンゼンバーナー2種」として側壁に空気穴aのあるバーナーの外観図が図示されているが、ノズルないしスロート部との位置関係は明示されていないことが認められる。

(2)  上記記載によれば、引用例1記載のものは、ガス管を接続して都市ガス、天然ガス等を燃焼させるバーナーと認められ、これにガスライターを当然に含んでいるということはできない。

また、前記のとおり、引用例1では、空気の取込み穴とノズルないしスロート部との位置関係は明示されていないから、空気の取込み穴をスロート部近傍でガスノズルの側壁部に設けることが開示されているということはできない。更に、上記記載によれば、引用例1記載のものは、ノズルの周囲を包囲し、空気調節ダンパーが形成され、下流方向に向けて広がる円錐台形状のガス流路が形成されている部材を必要としていることが認められるところ、これに対して、本件考案は、上記部材を必要とするものではないことは明らかである。

(3)  そうすると、引用例1記載のものは、ガスライターを当然に含んでいるということはできないし、これをガスライターに適用しても、構成要件Aとは異なる構成となるものと認められる。

この点に関して、原告は、このような予混合のガスノズルは、ブンゼンバーナーとして100年以上前からガス燃焼の方式として採用されてきた基礎的技術であると主張する。しかし、本件発明は、予混合のガスノズルというだけではなく、具体的な構成である構成要件Aを備えたガスライターであるから、予混合のガスノズルであるブンゼンバーナーが基礎的技術であるとしても、そのことから直ちに構成要件Aが導き出されるものとは解されない。

したがって、引用例1に構成要件Aが記載されているということはできないし、当業者が引用例1記載のものから構成要件Aをきわめて容易に想到し得たということもできない。

2  以上のとおりであるから、本件考案が、引用例1ないし3記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではないとした審決の認定判断は、その余について判断するまでもなく、正当であって、審決には原告主張の違法はない。

第4  よって、原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日・平成10年7月2日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

別紙図面1

<省略>

1……ノズル本体

1a……ガス流路の上流側

1b……ガス流路の下流側

2……スロート部

2a……小孔

7……フィルター膜

X1、X2……ガス流路

別紙図面2

<省略>

フレーム リテンション バーナーの構造

理由

Ⅰ.手続の経緯・本件考案の要旨

木件請求に係わる登録第2011789号実用新案は、昭和60年6月6日に出願され、平成6年3月23日に設定登録されたものであって、その考案の要旨は、本件登録実用新案に係わる明細書及び図両の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。「ガスボンベまたはタンクと連結されるガスノズルを備え、このガスノズルの径内に形成されたガス流路の上流側から燃料ガスをガス流路の下流側に流動させる小さな開孔のスロート部をガスノズルの径内に設け、そのスロート部近傍でガスノズルの側壁部に空気の取込み穴を設け、この取込み穴から吸引する空気とスロー卜部から流動する燃料ガスとを混合し、当該混合ガスを燃料ガスとして流出するガスライターにおいて、ステン、真鍮等の金属材料から1000~3000メッシュに形成された織布又は不織布のフィルター膜を燃料ガス中に混在する不純物の濾過用兼燃料ガスの流量調節用としてスロート部の近傍でガス流路の上流側に張設装備したことを特徴とするガスライター。」(以下、この実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により構成される考案を「本件考案」という。)

Ⅱ.請求人の主張

これに対し、請求人は、本件登録実用新案を無効とする、審判の費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理山として、本件登録実用新案は、単なる公知事項の寄せ集めに過ぎないから、実用新案法第3条第2項に該当して登録を受けられない考案であるにもかかわらず、誤って登録されたものである旨主張して、証拠として甲第1~16号証を提出した。

甲第1号証 本件登録実用新案に係わる公告公報(実公平5-18609号)(写)甲第2号証 本件登録実用新案に係わる出願時の明細書(写)

甲第3号証 本件登録実用新案に係わる審査段階での平成元年11月14日付拒絶理由通知書(写)

甲第4号証 本件登録実用新案に係わる審査段階での平成2年2月2日付意見書(写)

甲第5号証 本件登録実用新案に係わる平成2年7月21日付審判請求理由補充書(写)

甲第6号証 本件登録実用新案に係わる審判段階での平成4年11月9日付意見書(写)

甲第7号証 東京瓦斯株式会社「最近のガス燃焼工学」(昭和44年5月 講習会パンフレット)(写)

甲第8号証 実公平5-12617号公報(写)

甲第9号証 実用新案登録第2003584号登録証(写)

甲第10号証 実用新案登録第2003584号無効審判審決書(写)

甲第11号証 「ガス器具の常識」(1973年、東京瓦斯株式会社発行)(写)

甲第12号証 「ガス燃焼の理論と実際」(1992年、財団法人 省エネルギーセンター発行)(写)

甲第13号証 東京ガス株式会社産業エネルギー事業部 仲町一郎氏の意見書

甲第14号証 実公昭47-20053号公報(写)

甲第15号証 特開昭56-155316号公報(写)

甲第16号証 アサダメッシュ株式会社製造部長舟尾弘氏の説明書

Ⅲ.当審の判断

甲第1号証は本件登録実用新案に係わる公告公報、甲第2号証は本件登録実用新案に係わる出願時の明細書、甲第3号証は本件登録実用新案に係わる審査段階での拒絶理由通知書、甲第4号証は本件登録実用新案に係わる審査段階での意見書、甲第5号証は本件登録実用新案に係わる審判請求理由補充書、甲第6号証は本件登録実用新案に係わる審判段階での意見書であるから、これらの証拠は本件登録実用新案に係わる経緯を知る上では参考になるが、本件考案の進歩性を否定する証拠にはならない。

甲第7号証は予混合燃焼の装置としてブンゼン・バーナが公知であることを立証する証拠としては有効であるが、本件考案のノズルの構造が原理的にはブンゼン・バーナと同じ予混合形式を採用しているとしても、本件考案の構成要件である「ガスボンベまたはタンクと連結されるガスノズルを備え、このガスノズルの径内に形成されたガス流路の上流側から燃料ガスをガス流路の下流側に流動させる小さな開孔のスロート部をガスノズルの径内に設け、そのスロート部近傍でガスノズルの側壁部に空気の取込み穴を設け、この取込み穴から吸引する空気とスロート部から流動する燃料ガスとを混合し、当該混合ガスを燃料ガスとして流出するガスライター」の構成(以下、この構成を構成要件Aという。)は、甲第7号証記載のブンゼン・バーナの構成とは相違する。

したがって、甲第7号証により予混合燃焼の装置としてブンゼン・バーナが公知であることが立証されても、本件考案の構成要件Aが公知であることを立証する証拠にはならない。

甲第8~10号証は本件考案と同じ出願人による別出願の考案が実用新案登録第2003584号として登録されたが、無効審判(平成6年審判第14591号)により無効となったことを示す証拠であるが、該実用新案登録第2003584号の考案は、本件考案の出願後に公開されたものであり、かつ、予混合燃焼の点が共通するとはいえ金属材料のフィルター膜をスロート部の近傍でガス流路の上流側に張設装備したものではないから木件考案の構造とは相違する。

したがって、甲第8~10号証を提出したところで、本件考案の進歩性を否定する証拠にはならない。

甲第11号証の第162頁の図4-47には、ガスバーナのノズルの下流端に整流機構を設けたものが記載されているが、この記載だけでは整流機構がどのような構造のものかわからない。

甲第12号証の第111頁の図4.40には、ガスバーナのノズルの下流端に整流機構メッシュを設けた甲第11号証のものと同様な構造の予混合バーナが記載されており、かつ、甲第12号証にはシャープな層流火炎を得るために、金網で整流し、主炎孔に至る混合機流路はテーパ状になっている旨の記載があるが、甲第12号証の刊行物が発行されたのは1992年であり、本件考案の出願後である。

甲第13号証の意見書は、本件考案の出願後の平成7年にかかれたものであるが、該意見書には、甲第12号証の第111頁の図4.40のガスバーナは甲第11号証の第162頁の図4-47のガスバーナを使ったものである旨、及び、甲第11号証の書籍は社内研修用及び取引先への資料として配布したが、書店での一般販売はしていない旨の記載がある。

したがって、甲第12号証及び甲第13号証の記載から、甲第11号昭記載の整流機構が整流機構メッシュであって金網を用いたものであると認めたとしても、甲第11号証及び甲第12号証記載の整流機構は、層流火炎を得るためにガスの流れを整流するものであって、ガスの中に混ざっている微小の不純物を濾過するフィルターとは認められない。

又、甲第11~13号証には整流機構がステン、真鍮等の金属材料から1000~3000メッシュに形成された織布又は不織布のフィルター膜である点はなんら記載されていない。

又、甲第11~13号証記載のものは予混合バーナであって、本件考案のような、ガスボンベまたはタンクと連結されるガスノズルを備え、このガスノズルの径内に形成されたガス流路の上流側から燃料ガスをガス流路の下流側に流動させる小さな開孔のスロート部をガスノズルの径内に設け、そのスロート部近傍でガスノズルの側壁部に空気の取込み穴を設け、この取込み穴から吸引する空気とスロート部から流動する燃料ガスとを混合し、当該混合ガスを燃料ガスとして流出するガスライターではない。

したがって、甲第11~13号証を提出したところで、本件考案の進歩性を否定する証拠にはならない。

甲第14号証及び甲第15号証は審査段階の拒絶理由で引用された文献であるが、甲第14号証には、ガスコンロのバルブに連結できるノズル兼用連結ソケットのソケット内部、ノズル噴出口上流部分にフィルターを設けたものが記載されている。

又、甲第15号証には、喫煙用ガスライターのフィルターパッキングに関し、ガスライターのノズル上流にはフィルターパッキングとして従来金網等が使用されていたのを、金網等に代えて圧縮加工された合成皮革を芯材とし、該芯材の表裏両面に圧縮加工されたウレタンフォームを使用することが記載されている。

しかし、甲第14~15号証には、本件考案の構成要件である「ステン、真鍮等の金属材料から1000~3000メッシュに形成された織布又は不織布のフィルター膜を燃料ガス中に混在する不純物の濾過用兼燃料ガスの流量調節用としてスロート部の近傍でガス流路の上流側に張設装備した」点、及び前記構成要件Aは記載されていない。

したがって、甲第14号証及び甲第15号証記載の考案を寄せ集めても本件考案の構成にはならない。

甲第16号証は、甲第11~13号証での立証を補充するための説明書であるが、甲第16号証の添付資料2のカタログには700メッシュから2400メッシュまでの金網が記載されている。

しかし、甲第11号昭記載の整流機構として、甲第16号証の添付資料2に記載された700メッシュから2400メッシュまでの金網を用いたとしても、予混合バーナの整流機構として、700メッシュから2400メッシュまでの金網を用いたものになるにすぎず、前記構成要件Aを有するガスライターの燃料ガス中に混在する不純物の濾過用兼燃料ガスの流量調節用としてスロート部の近傍でガス流路の上流側に、ステン、真鍮等の金属材料から1000~3000メッシュに形成された織布又は不織布のフィルター膜を張設装備したものではない。

したがって、甲第11~13号証及び甲第16号証記載の考案を寄せ集めても、本件考案の進歩性を否定することはできない。

更に、甲第7号証、甲第11号証、甲第14~16号証のいずれにも、本件考案の構成要件である「ステン、真鍮等の金属材料から1000~3000メッシュに形成された織布又は不織布のフィルター膜を燃料ガス中に混在する不純物の濾過用兼燃料ガスの流量調節用としてスロート部の近傍でガス流路の上流側に張設装備した」点、及び前記構成要件Aは記載されていないから、前記甲第7、11、14~16号証記載の考案を寄せ集めても本件考案の構成にはならない。

以上のことから、本件考案は、公知事項の寄せ集めに過ぎないから実用新案法第3条第2項に該当して登録を受けられない考案であるとすることはできない。

Ⅳ.むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠によっては本件登録実用新案を無効とすることはできない。

よって、本件審判の請求は理由がないものとし、審判費用の負担については、実用新案法第41条の規定により準用する特許法第169条第2項の規定によりさらに準用する民事訴訟法第89条の規定を適用して、結論のとおり審決する。

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